50_JAファクトブック_2023

食料や農業を取り巻く環境 

 

世界に頼る食生活 

 

日本は食料の6割を輸入に頼っており、世界情勢等の変化が日本人の食生活にも大きな影響を及ぼします。 

 

【令和3年度】品目別自給率(カロリーベース) 

日本の食料自給率(カロリーベース):38% 

 

国産食材の広がる活用 

 

こうした中、近年では、食農教育の観点から、給食に国産小麦を100%利用したパンを提供している自治体が増えているなど、様々なところで国産食材の活用が広がっています。 

【小麦の自給率:17%】 

 

地元産小麦を100%利用した給食(和歌山県) 

 

国産飼料の活用 

 

さらに、日本では、家畜のエサの多くも輸入に頼っています。一方で、食料自給率向上をはかるため、畜産農家や米などを生産する農家が連携した取り組みも増えています。 

【米の自給率98%。一方で、畜産物(飼料自給率を反映)の自給率は16%】 

 

鶏に米を給餌し黄身が白くなった卵(京都府立農芸高校) 

 

※食料自給率:令和3年度カロリーベース(出典:農林水産省) 

 

 

 

さまざまな支援で新たな農業従事者を創出 

 

生産基盤を維持するため、行政やJAグループなど様々な組織が連携し、新規就農者の支援に取り組んでいます。農業大学校などでの研修や農業法人での就職など、様々な道が開かれており、他にも多くの支援があります。 

 

いちご新規就農者研修事業(JA全農岐阜いちご新規就農者研修所) 

 

 

JA(農業協同組合)とは 

 

 

組合員とJAの関わり

JAが都道府県、全国でまとまってJAグループを組織 

 

JAの事業力をより発揮するために、都道府県を事業領域とするJA都道府県連合会・JA都道府県中央会、全国を事業領域とする全国連合会・全国中央会という組織があります。これらの組織が連携することで、効率的に事業を展開し ています。 

 さまざまな連合会が、それぞれで役割を発揮しており、農畜産物の広域販売や生産資材の仕入れなどを担うJA全農・経済連、資金の運用などを担う農林中央金庫・信連、組合員のくらしの保障を担うJA共済連などがあります。 

 JA中央会は、JAグループの代表・総合調整・経営相談などの機能を担っています。都道府県段階にJA都道府県中央会、全国段階にJA全中を設置しています。なお、JA・連合会・中央会に、関係団体を加えた組織全体をJAグループといいます。 

 

JAグループの組織

協同組合とは 

 

同じ目的を持った人たちが集まり、助け合う組織 

 

協同組合とは、同じ目的をもった、個人や事業者などが集まりお互いに助け合う組織です。相互扶助の精神を基本的な考えとして運営し、共通の目的を達成するために、協同で様々な事業や活動に取り組んでいます。 

 

日本では農業協同組合(JA)や漁業協同組合(JF)、生活協同組合(生協)、中小企業等協同組合(中小企協)など、第一次産業から第三次産業まで協同組合が幅広く組織されています。そして、さまざまな事業や活動を通じて、組合員の生活の課題をみんなで解決し、地域社会の発展にも貢献しています。 

 

株式会社との違い 

 

株式会社は、できるだけ多くの利潤を上げて株主に配当することを目的にしています。運営方法は、「1株1票制」と呼ばれ、多くの株式を持つ人が支配する構造です。 

 

それに対し、協同組合では、組合員が事業の利用者であり、同時に組合の運営者になっています。また、運営では、組合員全員が参加し、方針を決める「1人1票制」を採用しています。つまり、「組合員の、組合員による、組合員のための組織」なのです。 

 

協同組合と株式会社の違い 

協同組合 株式会社 

目的 組合員の生活や文化の向上 利潤の追求 

組織者 <組合員>農業者、漁業者、森林所有者、 

勤労者、消費者、中小規模の事業者 <株主>投資家、法人 

事業、利用者 事業は根拠法で限定、利用者は組合員 事業は限定されない、 

利用者は不特定多数の顧客 

運営者 組合員(その代表者) 株主代理人としての専門経営者 

運営方法 1人1票制 1株1票制 

 

組合員とは 

 

農業者以外にも開かれた組織 

 

JAの組合員には、「正組合員」と「准組合員」の2種類があります。 

 「正組合員」は、農業を仕事としている人や法人等が条件です。組合員資格として、耕作面積や農業従事日数など、JAごとに具体的なルールを定めています。 

 一方で、「准組合員」は、農業者ではない地域に住んでいる人が対象です。「正組合員」と同様、JAごとに定めた出資金を支払うことで、准組合員として加入できます。「准組合員」も「正組合員」と同様にJAの事業やサービス、施設を使うことができます。しかし、「正組合員」と違い、総会での議決権や役員の選挙権などJAの運営に直接は関与できません。これは、JAが農業者を中心として、農業者の意思に基づき事業や組織について決定することが出来るようにするためです。 

 

准組合員の増加 

 

JAの組合員数は令和2年度現在で正組合員が410万人、准組合員が632万人*です。農家戸数の減少や農業者の高齢化などにより、正組合員が減少する一方で、准組合員数は増加しています。これは、JAが地域に密着した協同組合として、地域の人たちに評価されているからとも言えます。こうした状況の中で、正組合員だけでなく、准組合員の意見も取り入れながらJAは事業を運営しており、JAと地域農業は准組合員にも支えられています。 

*正組合員数・准組合員数…JA数と組合員数の推移参照 

 

JA数と組合員数の推移 

 

JA数の推移 

 

JAでは、行政区域を超えた広域合併がすすんでいます。その背景には、JAの基盤である組合員や農村地域が大きく変化し、JAもその変化に的確に対応していく必要があるためです。 

 

組合員数の推移 

 

JAの組合員は、平成22年に准組合員数が正組合員数を上回り、平成30年には組合員総数が減少に転じました。一方で准組合員は年々増加しています。 

 

第29回JA全国大会決議のご紹介 

 

JA全国大会は、JAグループの中期的な方針を確認、決議する場です。ここで決議された内容に、地域の実情や組合員の要望等を踏まえながら、都道府県大会議案が決議され、それを踏まえて、各JAは中期計画や事業計画等を策定します。つまり、JA全国大会決議は、JAグループが、同じ方向に向かって取り組むための「羅針盤」でもあります。 

 第29回JA全国大会(令和3年10月29日)では「新たに直面する環境変化をふまえ、次の10年に向かって挑戦する「めざす姿」とその実現に向けて、重点的に取り組む5つの柱を整理しました。 

 JA・県域・全国域、それぞれの組織は、JAグループ内外の様々な組織と連携して、JAグループが目指す方向性である「持続可能な農業・地域共生の未来づくり」をめざし、「不断の自己改革によるさらなる進化」に向け、ひとつひとつ着実に取り組みを進めています。 

 

JAの販売事業 

 

有利販売で農家の所得増大に貢献 

 

生産者(組合員)が育てた農畜産物を販売し、消費者に届ける販売事業は、生産者の所得向上に直結する重要な事業です。販売事業の中核は、「共同販売」です。個々の生産者が生産した農畜産物をJAが集荷して、サイズ・品質・ 規格を選別して安定的に出荷することで、有利販売に結び付けています。このように、生産者個人では難しい、スケールメリットを発揮できることがJAの大きな強みとなっています。 

 

生産者や消費者に最も身近な地域のJAに加え、都道府県段階のJA経済連・JA全農都府県本部、全国段階のJA全農本所が役割分担し、「共同販売」の強みを発揮できるよう、JAグループ一体で販売事業を展開しています。 

 

JA販売事業の主要品目別取扱高(令和2年度) 

消費の変化に応じ、販売を工夫 

 

新型コロナウイルス感染拡大による生活様式の変化、在宅機会の増加に伴う内食化や、eコマース・宅配による購買機会の増加、衛生・健康意識の高まりなど、国内の農畜産物の消費動向は大きく変化しています。野菜の国内需要は過半を加工・業務用向けが占めており、主食の米ではパックごはんの需要が拡大している状況です。 

 こうした消費ニーズの変化に応えるため、JAグループとしても対応を進めています。例えばJA全農では、生協やスーパー、コンビニエンスストアなどへカット野菜やサラダなどの原材料となる野菜を供給している他、主に国産鶏肉を使用した総菜小売店を展開する㈱アサヒブロイラーや、パックごはんの製造販売を行うJA全農ラドファ㈱の子会社化などにより多様化するニーズへの対応に取り組んでいます。また回転寿司最大手のスシローを展開する㈱FOOD & LIFE COMPANIESへの出資や、㈱日清製粉グループとの業務提携などにより、原材料となる国産農畜産物の販路拡大を進めています。 

 

さらにJAタウンなどのインターネット通販サイトや、JAファーマーズマーケット(農産物直売所)、レストランなど、消費者により近い取り組みに力を入れている他、和食人気が高まる海外の需要を見据え、農畜産物の輸出にもJAグループ一体で取り組み、国産農畜産物の需要拡大を図っています。 

 

共同利用施設で組合員の販売サポート 

 

JAでは農畜産物を集荷し販売するだけでなく、保管温度や衛生面での管理を徹底することで、農畜産物の品質を高め、市場での評価向上につなげています。例えば、米の出荷前に乾燥や保管をする共同利用施設の設置・運営を行っています。また、生産者から集荷した野菜や果実はJAの集出荷施設にて大きさや品質を選別し、箱詰めを行う他、状況に応じて冷蔵施設に入れ、鮮度を保ったまま卸売市場や店舗に届くよう工夫しています。 

 共同利用施設は、個々の生産者で機械や施設を買うと、費用や労力がかさむため、組合員が共同で利用できる施設としてJAが設置するものです。 

 

地域の特産物を生かした商品開発 

 

多くのJAが、生産者の所得を増やすため、農畜産物の付加価値を高める加工事業に積極的に取り組んでいます。それぞれの地域の特産物を生かした商品開発を行っています。 

 

JAグループの販売戦略

JAの購買事業 

 

スケールメリットを生かしメーカーと価格交渉 

 

購買事業は、生産者(組合員)が必要とする資材について、JAができるだけ安く、良質なものを供給しようとするもので、大きく二種類に分かれます。 一つは、肥料、農薬、飼料、燃料など、農業に必要な資材を供給する生産資材購買、もう一つは、食品や日用雑貨用品、エネルギーなど、生活に必要な品目を供給する生活資材購買です。各組合員が個々に購入するのではなく、JAグループがスケールメリットを生かしてメーカーと交渉することで、低価格で安 全、良質な資材を仕入れ、組合員に供給しています。 

 

効率的な資材供給のため、JAグループの各団体で役割分担をしています。全国で一括購入できるものはJA全農本所 が、都道府県ごとにまとめた方がいいものは都道府県のJA経済連・JA全農都府県本部がまとめて購入し、地域のJAを通じて組合員へ供給します。 

 

生活用品の主な流通経路 

JAグループの自己改革で、さらに生産資材の価格引き下げへ 

 

JAグループでは平成27年から、創造的自己改革の実践として「農業者の所得増大」等を掲げ、生産コストの低減対 策について重点的に取り組みました。 

 

具体的には、肥料では銘柄集約による新たな共同購入や、大口生産者への直送による物流コストの低減、農薬では 大型規格よりもさらに大きな担い手直送規格の取り扱いや、安価なジェネリック農薬の開発も進めています。農業機械では生産者の声を反映したトラクターの共同購入を実施しています。 

 

地域を支える生活資材 

 

生活の足となる乗用車をはじめ、農業機械、ビニールハウスの暖房などの燃料として、石油製品は生活・営農に欠かせません。石油製品の主な供給拠点であるガソリンスタンドは、地域に欠かせないライフラインの一つとなっていますが、石油業界は再編・寡占化が進み、平成8年と比べておおよそ半減しています。JAグループでは、物流コストの見直しやガソリンスタンド(JA-SS)のセルフ化等を進め、安定した供給体制の維持に取り組んでいます。JA-SSは令和4年末時点で全国2,290カ所に上ります。 

 

また、都市ガス化されていない地域では、LPガスの供給も生活に欠かせません。JA全農では、国内業者からの仕入 れだけではなく、産ガス国である中東諸国から直接輸入して安定供給に取り組んでいます。JAグループでは全国77カ 所(令和4年末時点)にガス充填所を設置し、自主物流体制の構築や他業者との物流提携を通して、地域組合員・消費者にLPガスを届けています。 

 

JAの指導事業 

 

支次世代の担い手の確保 

 

農業従事者が減少していくなか、日本の農業を持続可能なものにしていくためには、担い手を確保することが喫緊 の重要課題です。そこでJAグループは、半農半Xなども含めた多様な生産者の育成に向けて、行政等関係機関と連携しながら「新規就農者支援パッケージ(募集・研修・就農・定着)」を確立しています。取り組み体制を確保するとともに、農業学校等への働きかけやWEBを活用した情報発信の強化に取り組んでいます。 

 また、JAは、新規就農者の地元定着をはかるため、営農指導員や組合員組織(生産者部会や青年組織等)などによる研修を終えた新規就農者のサポート体制を構築し、新規就農者が早期に経営を軌道に乗せられるように営農に関する支援などをすすめています。 

 

JAの信用事業 

 

「JAバンク」としてさまざまな金融サービスを提供 

 

JAの信用事業は、JA信連、農林中金とともに「JAバンク」として一体的な事業運営が行われています。地域ごとのニーズに応えながら、さまざまな金融サービスを提供するものです。 

 

JAは、組合員・利用者からお預かりした貯金を原資として、地域の農家・農業法人・利用者の資金ニーズに対応しています。また、JA信連では大規模な農業法人や地元企業への融資、農林中金では金融市場での国際分散投資など、それぞれが効率的に運用を行っています。 

 

JAバンクは、全国に民間最大級の店舗網を展開する金融グループであり、JAバンク貯金残高は108兆円、国内個人預貯金に占めるJAバンクの割合は約10%となっています(令和4年3月末時点)。 

 

JAバンクの資金の流れ(令和4年3月末)

人金月JAバンクが中長期的に目指す姿 

 

JAバンクは、JAの総合事業性を最大限活かした役割発揮を行い、農業・くらし・地域の持続可能性、ひいてはその先にある地球環境の持続可能性の向上のため、地域の中核的役割を担うことを目指しています。 

 そこで、JA信用事業においては、農業・くらし・地域の3つの領域において、貸出等を中心とした資金供給・融通に加え、ステークホルダーへの相談・助言・ソリューション提供等に努めています。 

 

農業領域における取り組み 

 

持続可能な農業の実現に向けて、農業者所得の向上の実現を目指しています。そのために、家族経営から農業法人まで、幅広い農業者の成長ステージに応じた資金供給(融資・出資)と多様な担い手へのコンサルティングに取り組んでいます。また、JAバンクは、国内の農業関連融資において最大の貸し手であり、農業関連融資残高は近年増加が 続いています。 

 

農業関連融資残高

JAの共済事業 

 

「相互扶助」を事業活動の原点とする「JA共済」 

 

JAの共済事業は、組合員があらかじめ一定の資金(共済掛金)を出し合い、共同の財産を準備することで、生活を取り巻くさまざまなリスクに備える「相互扶助」(助け合い)の保障制度です。病気やケガ、火災や自然災害、交通事故などの不測の事態が生じたときに、組合員やその家族に生じる経済的な損失を補い、生活の安定を図ることを目的に、JAとJA共済連が一体となって組合員・利用者の皆さまに保障を提供しています。 

 

組合員・利用者の皆さまとJA共済のつながり 

JA共済は、人々が助け合い、支え合って生きてゆける社会の実現という「相互扶助」の理念のもと、農協の共済事業として昭和23年にはじまりました。事業開始以来70年以上にわたり、相互扶助の理念のもと、地域に「しあわせの輪」を広げ、豊かで安心して暮らすことのできる地域社会づくりに取り組んでいます。 

 特に東日本大震災をはじめとする大規模自然災害の際には、いち早く共済金をお届けし、組合員・利用者の皆さまのお役に立っています。 

 

保障・サービスの提供と地域貢献活動 

 

JA共済の使命は、組合員・利用者の皆さまが不安なく暮らせるよう、生活を取り巻くさまざまなリスクに対して幅 広く保障するよう努めることです。 

 

万一のときや病気、ケガ、老後などに備える「ひと」の保障。火災はもちろん、地震や台風などさまざまな自然災 害に備える「いえ」の保障。そして自動車事故による賠償やケガ、修理に備える「くるま」の保障。この「ひと・い 

え・くるまの総合保障」を通じて、それぞれの目的やライフプランに応じて充実した保障を提供し、皆さまの毎日の 暮らしをバックアップしています。 

 

さらに、農業者の皆さまが安心して農業経営に専念し、安定的な事業・生活基盤を築いていただけるよう、農業者 に共通する「生産」から「出荷・販売後」までのさまざまな賠償リスクについて一体的に保障する「農業者賠償責任 共済ファーマスト」をはじめ、農業者向けの各種保障を提供しています。 

 

また、JA共済では、保障・サービスの提供に加え、さまざまな地域貢献活動を行っています。平成28年度からは 「地域・農業活性化積立金」を創設し、従来から行っていた健康管理・増進活動や災害救援、交通事故対策活動など の「ひと」「いえ」「くるま」分野の地域貢献活動に加え、地域の実情に応じた「くらしや営農」に関するさまざま 

な活動に取り組んでいます。 

 

JAの厚生事業 

 

農村医療の充実へ、立ち上がった農民 

 

厚生事業とは、組合員や地域住民の健康を守るために、病院や診療所などを運営し、保健・医療・高齢者福祉を提 供する事業です。 

 JAの医療事業は、大正8年、医師がいないため医療を受けることができなかった島根県鹿足郡青原村(現・津和野 町)で、農民自らがわずかなお金を持ち寄って、医療を安く供給しようとしたことから始まりました。 

 戦前の農山村地域では、過労や栄養不足などの悪条件に加え、医師のいない町村も多く、都会に比べ医療施設に恵 まれていませんでした。また、農業者には農作業をするときに発生しやすい病気や、農業機械による事故もありま す。そのため、産業組合(JAを含む協同組合組織の前身)が、無医地区の解消と医療費の低廉化運動を展開、病院や 診療所の経営を始めました。今では、農協法のもとでJA厚生連がこれを受け継ぎ、運営しています。 

 

全国の農山村の医療を支える 

 

JA厚生連は令和4年3月末現在、全国32の都道県に33連合会が組織され、105病院・61診療所、農村検診センター 21施設、介護老人保健施設28施設、訪問看護ステーション96施設、特別養護老人ホーム9施設、介護医療院4施設、 看護師養成所13施設等を設置・運営しています。 

 JA厚生連が運営する病院のうちおよそ4割が人口5万人未満の地域に立地しており、地域によっては当該市町村で唯 一の病院施設となっています。また、およそ9割の病院で救急患者を受け入れ、救急医療を担っています。農山村地 域や、へき地における医療の確保に大きく貢献し、人々の健康で豊かな生活を支えています。 

 農山村地域における医療の確保を原点に、地域におけるニーズに対応しながら、健康増進活動の促進、良質な医療 の提供、急速な高齢化へ向けての対応等、組合員および地域住民の方が日々健やかに過ごせるように、保健・医療・ 高齢者福祉の分野で各地域において積極的に事業を展開しています。 

 

JA厚生連が行う3つの事業

災害・感染症への対応 

 

東日本大震災では、主に岩手県、宮城県、福島県の海岸部を中心に死者・行方不明者が約2万人に上りました。家 屋の倒壊や東京電力福島第一原子力発電所事故等による避難生活者は、17万人に達するなど未曾有の大災害となりま した。このため、全国各地の病院から災害派遣医療チーム(DMAT)や医療救護班が派遣されました。JA厚生連から も、DMATや医療救護班を延べ3,000人派遣し、被災者の治療や看護、健康管理活動等を行いました。 

 新型コロナウイルス感染症に対しても、感染症指定医療機関に指定されている33の厚生連病院のみならず、多くの 厚生連病院で感染患者を受け入れ、令和4年11月末現在、入院患者が延3万人を超えております。また、令和5年1月4 日時点でコロナ陽性患者を受入れる病床のうち、3%を超える1,530床を厚生連が確保しています。その他にも、帰国 者・接触者外来の設置、自治体やJAグループからの要請によるコロナワクチン接種など、地域の中核病院として必要 な対応を行っています。 

 

地域住民の健康を創る 

 

JA厚生連では、疾病の早期発見・早期治療、健康増進を目的に健診の充実に努めています。厚生連病院などでの施 設健診に加え、生活習慣病検診車などで健診に回り、令和3年度の受診人数は約215万人に上りました。人間ドック も実施する他、健康セミナー、食生活の改善指導など健康教育にも力を入れ、健康増進をサポートしています。ま た、高齢者のくらしを支援するため、訪問看護やリハビリ、高齢者の健康相談なども行っています。 

 

JAグループの新聞・出版・旅行事業について 

 

日本で唯一の日刊農業専門紙を発行 

 

『日本農業新聞』は、JAグループの(株)日本農業新聞が発行する日本で唯一の日刊農業専門紙です。全国で約30万 部を発行しています。長引く物流の混乱や円安の影響で、農業者の営農継続や国の食料安全保障が危ぶまれる中、進 化し続ける農業技術や、目まぐるしく変わる農政の動向、気象情報、農業所得に直結する農畜産物の品目ごとの卸売 価格や消費トレンドなど、農業者に必要不可欠な情報を毎日提供しています。また、豊かな農村生活を送るための情 報、食農教育の取り組みなども伝えています。 

 

令和3年11月に新聞の電子版を創刊しました。電子版は、JA役職員を中心にデジタルに慣れた若い世代のニーズを 捉え、創刊から1年3カ月で17,000IDまで伸びました。 

 また、本紙に掲載された120万本超の記事を検索できる「日本農業新聞データベース」事業、インターネットで農 畜産物価格・市況データを届ける「netアグリ市況」の運営など、新聞紙面を基軸とした多メディア展開に取り組ん でいます。このほか、消費者向けのJA農産物直売所情報誌『フレマルシェ』の発行やJA広報のコンサルタント、海外 農業研修視察団の派遣など、多彩な事業を展開しています。 

 

『家の光』の発行とJA教育文化活動の活性化 

 

一般社団法人家の光協会は、JAグループの一員として、協同組合精神に基づき、出版・文化活動を通じて農山漁村文化の向上に寄与することを目的として設立された団体です。月刊誌『家の光』をはじめ、各種雑誌・書籍を発行する他、それらを活用したさまざまな教育文化活動を通じて、アクティブ・メンバーシップの確立を支援しています。 

 

『家の光』は、“協同の心”を家庭で育む雑誌として大正14年に創刊され、令和7年5月号で創刊100周年を迎えま す。「食と農」「暮らし」「協同」「家族」という4つの柱を大切にしながら、「人・組織・地域の幸せづくりをめ ざす農協運動の底力」となることをモットーに制作しています。また、コロナ禍以降の「新しい生活様式」に対応し ながら活用できる記事を、Web・動画サイトなどと連動しながら掲載するよう力を入れています。この他、農業・地 域・JAを担うリーダーのためのオピニオン雑誌『地上』、JAグループの食農教育をすすめる子ども雑誌『ちゃぐり ん』、家庭菜園雑誌『やさい畑』、農業、協同組合、教養、生活実用のジャンルからなる書籍の発刊の他、食と農を 中心に生活全般の有益な情報を提供するWebメディア『あたらしい日日(にちにち)』など、「国消国産」の意義等 に関する国民理解の醸成やJAファンづくりにつなげる広範な情報発信に努めています。 

 

文化事業では、雑誌や書籍の愛読者が集い、記事を活用した体験を発表する「家の光大会」や、家計簿記帳・ライ フプランの樹立・わたしノート(家の光エンディングノート)作成を柱とする「ハッピー マイライフセミナー」、料 理教室や手芸教室、「あぐりスクール」などの食農教育活動の開催を支援しています。 

 

旅を通じた地域の活性化支援 

 

JAは、組合員・地域住民の余暇活動の充実や、JA総合事業の推進・活動の活性化に向けた、旅行事業も展開してい ます。旅行事業とは、「地域内」「JA内」「JAとJA」「都市住民とJA」などさまざまな段階での交流を促進する「旅 行・催し」などを通じ、「地域の絆づくり」を提案することです。各JAや(株)農協観光が取り組んでいます。 

 

JAグループの旅行会社として特に「食と農」にこだわり、地域の魅力をお届けいたします。地域の美味しいものを 食べたい、農産物の収穫体験をしたい、接客が良い宿泊施設に泊まりたい等、様々なご要望にお応えいたします。更 に、利便性を高めるためWebによる宿泊の販売も開始いたしました。 

 また、農協観光では旅行以外の分野にも取り組んでおり、「国内農業の発展と共生社会の実現」を事業理念に掲 げ、農業労働力不足と障がい者雇用機会創出の課題解決をマッチングする農福連携事業やアグリ人材バンクを運営し ています。その他にもSDGsやカーボンオフセットに対するソリューションや地域共創等を通じて地域の活性化・農 業ファンの拡大に取り組んでいます。 

 

国 消 国 産 

 

「国消国産」とは、「国民が必要として消費する食料は、できるだけその国で生産する」という考え方のことで、 JAグループ独自のキーメッセージです。 

 私たちは新型コロナウイルスの感染拡大により、食料・農業について貴重な教訓を得ました。マスクの需要が急激 に増加した際、その多くを輸入に頼っていたことから、国内は深刻なマスク不足に陥りました。もしそれが食料であ ったらどうなっていたでしょうか。  コロナ禍において、いくつかの国が食料の輸出を制限しました。幸いにも、それらの国から日本は食料を大量に輸 入していなかったので影響は出ませんでしたが、何らかの問題が発生したとき、食料の輸出入が滞る恐れのあること 

がわかりました。 

 

全ての食料を国内で生産することは現実的ではありません。しかし、「国消国産」という考え方を、食料を生産す る側だけではなく、国民全体で認識共有することは重要です。そこでJAグループは令和3年に国連が定める「世界食 料デー」に合わせ、10月16日を「国消国産の日」として制定しました。 

 

近年、日本の食料を取り巻くリスクは高まっています。①食料自給率の低迷②農業生産基盤の弱体化③自然災害の 頻発④世界的な人口増加――といった大きなリスクが考えられます。 

 

第一のリスクは、食料自給率が長期にわたり低迷していることです。政府が定めた食料自給率(カロリーベース) の目標値は令和12年で45%となっていますが、令和3年は38%にとどまりました。先進国の中でも極めて低い水準となっており、国民が消費する食料の約6割は輸入に頼っている状況です。 

 

我が国と諸外国の食料自給率

第二のリスクは、農業生産基盤の弱体化が深刻になっていることです。新規就農者は1年に約5万人いる一方で、農 業従事者は1年に平均5.6万人のペースで減少しています。さらに、農業従事者の高齢化も大きな問題です。「平成」 の30年間で平均年齢は約10歳高齢化し、令和7年には約7割が65歳以上になると試算されています。 

 また、農地面積も50年前には580万haでしたが、令和3年には435万haに減少しています。 

 

第三のリスクは、自然災害の頻発です。国内ではその回数・被害額ともに増加し、令和3年度の農林水産関係被害 額は、1,955億円に上りました。日本に限らず、世界各地でも、今までにない大洪水、干ばつ、山火事、台風、熱 波、暴風などが多発しています。 

 

第四のリスクは、世界的な人口増加です。世界の人口は令和2年の統計で約78憶8,800万人であり、今後さらに増え 続けることが予測されています。 

 

さらに今般、ウクライナ情勢などの世界情勢の緊迫化や急激な円安などによる生産資材価格の高騰・高止まりによ り、生産現場はかつてない危機的な状況に直面し、このままでは持続可能な食料生産ができない状況になりつつあり ます。 

 

こうした日本の食料を取り巻くリスクが高まっていること、そして「国消国産」の重要性を、ぜひ多くの皆さまに ご理解いただき、食料を生み出す農業・農村を応援したいと思っていただける方を一人でも増やしていくことが重要だと考えています。一人ひとりの少しの行動が、日本の農業・農村、ひいては食料を守るための大きな力になります。 

 

JAグループサイトの中で(https://agri.ja-group.jp/foodsecurity/)「国消国産」に関する情報などをご紹介しています。